【外苑前の10坪店舗(空中階)】“でも”じゃなくて“したい”と思う人にこそ、10坪飲食店の開業にチャレンジしてほしいですね。「BARトースト」オーナー・佐伯さんインタビュー。〈後編〉

10坪の可能性を信じ、挑戦している方のお話を聞く「10坪ストーリー」。

前回に続き、「BARトースト」オーナー・佐伯さんにお話を伺いました。

お店へのこだわりと、ストーリーが素敵です。

BARトースト。店名の由来

バーを開きたいと思った10年以上前から、店名は「トースト」にしようと決めていました。物件を探し始めたころ、自分のなかのイメージを明確にするためにこんな文章を書きました。


「外苑西通りから一本裏道に入ったところにある、古い雑居ビルを見上げると、大きな窓からあたたかい光がこぼれている。『こんな深夜にパン屋さん?』と思って近づくと、小さな看板にはBARと書いてある。わずかに漏れ聞こえるざわめきに誘われて階段を登ったら、おしゃべりなマスターの笑い声と、トーストのいい香りが漂ってきた」


これを、店舗に携わってくれたデザイナーや不動産屋、それから契約のときビルのオーナーにも見せました。「こんな店を造れたらいいな」と、ワクワク想像しながら考えました。

さて「トースト」について。イギリスパンは、諸説ありますが、イギリスの産業革命の頃に発案されたといわれています。たくさんの労働者たちに効率よく食事を提供するため、長い鉄の枠で一気に焼いたのがその始まりだとか。働く人たちが一堂に会し、ビールやワインを飲みながら焼きたてのパンを分け合い疲れを癒す。それって素敵だなと思って。僕も、働いた人たちが場を分け合いながら一日の疲れを癒してもらえる場所を造りたいなと考えました。

あと、トースト(toast)には「乾杯」という意味があるんですよ。その二つの想いを店名に込めました。とにかく覚えやすい店名であることは、僕のような何物でもない人間が店を開くにはとても大事なことだと思っています。

余談ですが、イギリスの産業革命といえば蒸気機関車ですよね。なので、カウンターには外国から取り寄せた列車の枕木を使用しました。非常に扱いにくい木材ですが、色合いも良くとても気に入ってます。湿気で膨張してしまうのでカウンターには不向きですけどね笑。

コースターは、店の顔

「BARトースト」のロゴをデザインしてくださったのは、アート・ディレクターの長嶋りかこさんです。「トースト」のイメージや店への想いを伝えて協力していただきました。

僕はアンティークの家具や小物が好きなのですが、モノってどんどん増えていくじゃないですか。なので、店がおどろおどろしくなったとき「いまおかしな方向に進んでいませんか?」と気付かせてくれるような、コンセプチュアルだけどシンプルなロゴを作ってくださる方にお願いする必要がありました。

オープンして二年半になりますが、いまでも「かわいいデザインですね」と言ってもらえますし、「なんとなく看板に惹かれて」と新規のお客さんがいらっしゃることもあります。嬉しいですよね。ロゴって店の顔なので、妥協する気はありませんでした。信頼できる方に引き受けてもらえて本当に良かったです。

■ちょっと自慢の、唯一のわがまま

“顔”といえば、もうひとつ。カウンターの奥にひっそりと絵を飾っています。大きな絵を飾ることは18歳のころからの夢でした。もう50回以上読み返している大好きな小説に、レストランのオーナーが若い画家の絵を買う場面がでてくるんですよ。それに憧れてて。「この人しかいない」と思った方に無理を承知でお願いしました。いまはそんな勇気はないですが、そのときは必死だったんでしょうね。絵を飾るためにカウンター内のスペースをかなり広くとりました。贅沢すぎる(無駄な)スペースですが、とても気に入っています。開業にあたりお金をかけた、僕の唯一のわがままです。

10坪不動産を目指す方へ、メッセージを

はじめから完璧な店を造ろうと肩肘を張らないほうがいいかもしれません。工事が始まったころは完璧にしないと!とあせっていましたが、いまでは、お客さんと一緒に店を造る楽しみもあるのかなと、少し余裕を持って考えられるようになりました。直したいところはいくつもありますが、時間もお金もかかるので、少しずつ修正しながら営業しています。

これから飲食店開業を目指す方にお伝えするなら……おこがましいですが、「飲食店 “でも” やろう」という気持ちでは続かないと思います。お客さんに失礼ですし、きっといい店はできないですよね。「こんな店を造りたい!」という想いが爆発している人なら、きっとうまくいくと思います。

‐佐伯さん、取材のご協力、ありがとうございました! 

10坪飲食店の売りは、店の人のこだわりにあり!ということを、佐伯さんが体現しているなと感じました。

お店へのこだわりとストーリーも2000字ばかりの記事ではお伝えしきれません。この続きはぜひカウンターで。

夜がふけるころには、佐伯さんの歌声も聴かせてもらえるかもしれません。

【※取材店舗情報※】

店舗名:BARトースト

住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-42-11ローザビアンカ305

営業時間:月~土曜日  20:00~4:00

定休日:日曜日

電話番号:03-6206-4209

kazuki nishiyama